・・・・までの距離③

こんにちは。
ここしばらく雨が続いて、しかもなんか冷え込んで来ましたね。
寒い日にはお鍋がお部屋も身体も美味しく温まって嬉しいのですが、皆様、「おでん」お好きですか?
我が家ではわりと登場回数の多いメニューなのですが、引っ越してきたことにより一つ困った事が発生いたしました。
「おでん」というのは地方により、様々な味付け、具材を煮込んで食べられている国民食だと思います。私も関西ではあまりメジャーではないけど「ちくわぶ」とか「はんぺん」などという具材があるのは知っていました。だけど、まさか今住んでいる地域に「牛スジ」が無いなんて思いもしませんでした(この場合の「牛スジ」とは生で売られてるものではなく、アキレスなど硬い部位をボイルして串刺しで売られてるものです)
スーパーで探しても無いんですよ「牛スジ」。もしかして、これも地域限定具材だったのでしょうか・・・・・?実家から送って貰えと、相方は真剣に私に訴えかけてきやがります。食の違いというのは色々と面白いものですね。

先週に引き続き、食べ物ネタで済みません(>_<)。以下は連載第三話目です。





 そんな一幕が有った日から今日で16日目。
 激しい言い争いなどまるで何も無かったかのように、滞りなく日々は過ぎていった――――ように見えるだろう。
 毎朝一緒に大学に向かっては研究に勤しみ、終われば同じアパートに帰って共に食卓を囲む。これまでと何一つ変わらない生活だ。だが、よくよく観察してみると、どこかおかしいことに気付く筈。それは極些細な事象の積み重ねでしかないかもしれないけれど、確かにこれまでの二人とは違っていた。
 そしてその違和感の最たるものは、二人の間の距離ではないかと宗一は考えていた。いつもの森永ならピッタリはりつくように宗一の傍にいるのに、最近はその対宗一専用の距離間は発動されることなく、少し離れた位置にいる。それは伸ばした手が僅かに届かない、でも実験の助手をする分には不便の無い絶妙の距離加減でキープされている。
 
 宗一の考え通り森永の立ち位置が少々離れていたとしても、これまでと何ら変わることなく彼が優秀な助手であることは間違いない。宗一のサポートも新人助手への指導や気遣いも完璧だ。自宅に帰ってからもくだらない言い争いも無く、気を抜いた瞬間に押し倒されたりすることもない、宗一にとっては非常に快適な生活の筈・・・だった。
 


 ―――のに、難儀なことに、こんな生活に先に音を上げたのは宗一の方だった。ものすご~くイラつくのだ。森永が嘘くさい笑顔で自分に話しかけるのがムカつく。何かのきっかけで目が合っても、宗一の視線から逃げるように目を逸らすのがムカつく。宗一が森永の傍に近づこうとすると、何かと理由をつけて離れていくのがムカつく。あれほど毎日ベタベタ宗一に纏わりついていたのに、最近は全然近づいて来ようとしないのがムカつく。全く触れようともしないくせに、これまで通りの出来のいい後輩ヅラで接してくるのがムカつく。

 イライラムカムカは募る一方で、それどころか日々倍々ゲームでイライラが増していっている気すらする。
 もう本当の本当に限界だった。このままでは怒りのあまり体中の血液が一瞬で蒸発してしまいそうだ。



 宗一はもたれ掛かっていた壁から身体を離すと、くるりと身を翻し、その一撃に怒りを込めてガンっと壁に蹴りをいれた。足の裏から堅い手応えを感じると、もうちょっとおまけとばかりにガンガンっと靴の裏で蹴りつけた。
 何の反応もない壁に何度か八つ当たった後、ふぅと大きく息を吐き出すと、まるでいま目の前に、森永本人ののほほんとした顔があるかのように壁を睨みつけた。そして・・・。

「よっし!決めた!」
 
 無言の壁に向かって、いきなり大声で決意表明した宗一は、来た時と同じように・・・いや、それ以上の疾風のごとき速さで、喫煙所を去って行ったのだった。




 宗一が研究室に戻って来てから既に1時間が経過していた。
 休憩中に森永も舞い戻って来ていたらしく、宗一ががらりと扉を開けると、中にいた森永と出会い頭に目が合った。宗一の目に映った森永は瞬間嬉しそうに目元を緩めた。だが、直ぐハッとしたように表情を引き締めると、気まずそうに視線をキャビネットへと移したのだった。

 ―――クソッタレめ・・・。

 チッと小さく舌打ちした宗一は足音も荒く室内に入り、矢継早に助手たちに仕事の指示を出していく。そしてその最後に一言付け加えた。「今日はいま言った作業を全て6時までに終了させるから、そのつもりで励め!」
 独裁者からの突然の厳命に「「ええぇ~!!」」と、助手達からは当然のように大きな悲鳴が上がる。しかしそれも『ギロリ』と鬼の一睨みで沈黙させた。
 バタバタと慌てて作業を始める助手達の中にあって、ただ一人森永だけは他の二人とは異なる表情で宗一を見ていた。その事に宗一は気付いていたが、ふいっと顔を逸らし、知らぬふりをした。



 宗一の宣言通りすべての工程を6時までにやり終えた面々は、太陽が沈む前に学校を退出していた。珍しいこともあるものだと廊下を行く宗一達に奇異の視線が集まっていたが、無論そんなもの宗一は頓着もせずスタスタと早足で歩いていく。その宗一からトボトボと、数歩遅れて森永は後をついて歩いていた。


「あの・・・オレちょっとスーパーに寄ってから帰るんで、先輩は先に帰っててください」
 大学を出た所でピタリと立ち止まり、森永は明らかに作りものと解る笑顔を浮かべながら宗一に声をかけた。どこかそわそわと落ち着きのない態度で、しかも彼の身体などもう半分アパートとは逆の方向に向いてしまっている。
 そんな森永を胡乱な目でしばし見つめ、宗一が答えた。「解った。俺も一緒に行く」

 予想とは真逆の返答に、森永は動揺を隠せないようだ。いつもなら小躍りする位喜ぶはずの宗一の申し出を、森永は慌てて断ろうとした。
「あ、いえ・・・その、オレ・・折角今日は早く帰れたんで、スーパーで色々買い込みたいんですよ。だ、だからどうか先輩は先に・・」
「だったらオレも一緒の方が良いだろ。荷物持ちとして行ってやる」
 だが、そんなしどろもどろな森永を遮るように宗一はズバリと返すと、さっさと方向転換して馴染みのスーパーへと足を向けたのだ。

 スタスタと足早に遠ざかっていく宗一を視界に収めながら、森永は小さく息を吐く。そうして小さくなっていく背を追い、慌てて駆けて行った。
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